映画の感想や好きな俳優の情報を発信します。新作以外はネタバレあり。
【映画】アクトレス ~女たちの舞台~
2015年11月12日 (木) | 編集 |

アクトレス ~女たちの舞台~(2014)フランス/ドイツ/スイス
原題:Sils Maria
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演: ジュリエット・ビノシュ/ クリステン・スチュワート /クロエ・グレース・モレッツ/ ラース・アイディンガー/ ジョニー・フリン/ ブラディ・コーベット
日本公開:2015/10/24

授賞式を欠席する劇作家ヴィルヘルム・メルヒオールに代わって賞を受け取るためチューリッヒに向かう途中、女優マリアはメルヒオールの訃報に触れる。恩人の死に打ちのめされるマリア。そんなマリアに新進監督クラウスがリメイク版『マローヤのヘビ』への出演を依頼するが・・

オリヴィエ・アサイヤス監督、ジュリエット・ビノシュ主演の人間ドラマです。

「二ヶ月くらい空きが出来たら、ささっと何か書いてくれない?
一緒に映画作りましょ。」
ビノシュからのそんな申し出で作り始めたという本作は、女優ジュリエット・ビノシュを大いに意識したフェイクドキュメンタリーみたいな印象が面白い作品でした。

ビノシュ演じるマリアは、20歳の頃に演じた『マローヤのヘビ』のシグリッド役が当たり世に出た女優。恩人である監督が死んだタイミングでマリアにリメイク版への出演がオファーされるんですが、マリアはかつて演じたシグリッドではなく、シグリッドに翻弄される中年女性へレナの役だったことにショックを受けます。マリアはいまだにシグリッドのイメージを引きずっていて「自分がやるならシグリッドでしょ」と思ってるのがちとイタい。
シグリッドとヘレナは表裏一体の存在と監督に説明され考えてみることにするマリア。しかしアシスタントのヴァレンチノ(クリステン・スチュワート )と読みあわせ稽古をしていても、惨めさばかりがつのってしまうのです。
彼女は役を受け入れることが出来るのか という話ですね。


人間誰しも老いを受け入れるのは難しいもの。
華やかな女優の世界に身を置くものはなおのことでしょう。

マリアがヘレナ役を拒むのは、ヘレナは中年の惨めな負け犬との意識があってのこと。しかしそんなマリアの思いはヘレナへの解釈を通し、少しずつ変わっていきます。

映画の大半をマリアとヴァレンチノの読み稽古の、いってみれば劇中劇が投入されるのが面白い作品です。と言っても、劇の内容自体はストレスフルで、はっきり言って面白くはないんですが、マリアとヴァレンチノの関係がシグリッドとヘレナの関係に重なっていくのが面白く、2人の演技力にも驚かされました。

普段はおっさんおばさん風なのに、ドレスアップすると女優顔になるビノシュすげー

今回私は初アサイヤス体験となりましたが、
フィルモグラフィーを見ると、彼は85年にカトリーヌ・ドヌーヴが主演したアンドレ・テシネ作品『夜を殺した女』で脚本を書いてるんですね。
キャストに二重の役割を投入する作家であることがイメージできます。

えっと、ここネタバレになるのだけど、自分の解釈を説明する上で外せない部分なのであえて書きます。未見の方はスルーでお願いします。




今回特に面白いと思ったのが、後半、マリアとヴァレンチノが訪れたスイスの山での出来事です。舞台劇のタイトルでもある「マローヤのヘビ」という自然現象を目にした瞬間、一緒にいたはずのヴァレンチノが忽然と姿を消すのです。

最初はヴァレンチノはどこか違うスポットからこの現象を見てるのだろうと思ったのだけど、そういう描写もなく、必死にヴァレンチノを探すマリアの姿を見せた後、映画はヴァレンチノのいない日常へとカメラを移すのですよ。

色んな捉え方があると思いますが、私としてはひとつにはヴァレンチノがヘレナへの自分の解釈を実践して見せたのかなと思います。
マリアは「(劇中)ヘレナが山の中で消えたのはヘレナの死を意味する」と言い切るのですが、ヴァレンチノはそうとは限らないと解釈していまして、「ヘレナは新しい人生を始めたかもしれないじゃないか」と言うのです。
惨めなやつは消えるしかないというマリアの考えを否定するヴァレンチノの捉え方は
歳を取ればものの見方も変わり、若い頃とは違ったスタンスで道を歩むことができるのだという映画のテーマに通じるものです。

もう一つ、ヴァレンチノの消滅は、表裏一体とされていたシグリッドがヘレナになった瞬間。すなわちマリアがヘレナを受け入れ、元々自分の中にいたシグリッドとヘレナが一体になった瞬間だったという解釈です。監督、というより脚本家アサイヤスはこういうことをやる人だと思うので(笑)

人間関係を緊迫させたあとには、カノンの曲とともに、雄大な自然の光景を見せてみたり緩急をつけて見るものの情緒をコントロールしてるのが心憎い。
山間に雲がグングン伸びていくマローヤのへびの現象を見せるシーンは神秘的
マリアの変化を感じながらのこのシーンには、心が洗われるような静かな興奮を覚えました。


リメイク版でシグリッドを演じることになる新進女優ジョアンにクロエ・グレース・モレッツ。クロエちゃんもポテンシャルの高さを感じさせる演技。

はっきり言って、マリアが老いを受け入れたのかどうかはよくわかりません。
ただ、彼女は若さに囚われるかのように、あるいは自分の分身のようだったヴァレンチノから離れ、女優としてのこだわりは保ちつつも、ヘレナを演じるのです。


女優の恋人にしては地味なおっさんだなと思っていたマリアの恋人が最後にはとてもお似合いに見えてくる。ヴァレンチノに変わってマリアを癒してくれるだろうことにもホッとさせられます。

新旧交代というシニカルな現実を描きながら
大女優として「今」を演じるビノシュにリスペクトとエールを送る作品でしたね。
セザール賞でクリステン・スチュワートが助演女優賞を獲得
ビノシュ以上に評価されているのは皮肉な話ですけど
若手が道を拓いていくこともまた映画のテーマに通じるところでしょう。




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2015/11/12(木) 午後 9:44 [ 今昔映画館(静岡・神奈川・東京) ]

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コメント
この記事へのコメント

おお、”シルス・マリアにかかる雲”って事ですか?ジュリエットは”イングリッシュ・ペイシェント”からずっと追ってますよ。”Jet Lag"と言うジャン・レノと共演した映画も先週みたばかりです。”ゴジラ”は出ないでも良かったのに、、、。
2015/11/12(木) 午前 7:10guch63


寝てしまう、、、かな
彼女は 存在の耐えられない は大好きで
イングリッシュペイシェント 寝てしまって わけわからなくなり ずっと見ていた娘に馬鹿にされ 以来観てない

2015/11/12(木) 午前 8:13[ おみゃあ ]



先日ミニシアターに行ったときに上映してましたが、こういう新作を見た方が良いのに、何度も見てる「悪魔のいけにえ」をチョイスしてしまった(汗)…。
老いは受け入れざるをえないというか、がっくりくるんですよね…なんじゃ今の自分…て(笑)…。
最近、お金がなくて家で出来るだけ映画見る習慣がついてきた。
機会があれば見たい作品ですわ。

2015/11/12(木) 午前 9:08[ ゾンビマン ]


面白い内容の一作ですな~。
「おっさんおばはん風w」のビノシュは好みじゃないけど、やっぱドレスアップすれば流石ですな。
クロエちゃんも成長してるな~。

2015/11/12(木) 午後 7:03Kaz.Log


こんばんは!
これ、すごく観たいと思ってた一本です!
おっさんおばさん(笑)ジュリエット・ビノシュ、苦手!な人が多いけど、私は好きなんですよ。「存在の耐えられない軽さ」とか大好き。輝きたい!才能ある監督と仕事したい!という彼女の貪欲さは、まさにTHE女優って感じ。ミヒャエル・ハネケ監督やテシネ監督の映画に主演するかたわら、ゴジラとかにも出たりする守備範囲の広すぎるガツガツ精力的なところも好き。アサイヤス監督との「夏時間の庭」も佳作でした~。
アンドレ・テシネ監督の作品が、日本ではパッタリ公開されなくなって、すごく悲しいです…

2015/11/12(木) 午後 8:23[ 松たけ子 ]


おおお、ビノシュ。
上手い!のは痛いほどわかる。しかし苦手なのだよ。
多分彼女の演技の巧みさのせいで今まで演じてきた数々の憑依したようなエキセントリック感が強烈すぎて。
出てきただけで「うわー、また何か凄いこととかするかもぉ」って思っちゃって怖じ気づくの(そんな映画ばっか観てるってことか?)
あれだな『ダメージ』の役が凄くてワケわかんなくて、あの役の女がだいっっっっっ嫌いだからだな(笑)
ううう、しかしこれは最近お気に入りのクリステンが出てるのか。
悩む~。彼女の演技は観たいな。
ところでおっさんなおばさんの時のビノシュってイザベラ・ロッセリーニと激似じゃね?

2015/11/12(木) 午後 8:50[ みーすけ ]



女優の演技に魅せられてしまって、この映画の評価すごく高いです。今年のベストテン入り確定だと思います。特にクリステン・スチュワートの一挙手一投足がかっこよくって惚れ惚れでした。ヴァレンチノの消滅はすごく象徴的でリアルというよりは、マリアの心象風景という風に解釈しました。TBさせてください。

2015/11/12(木) 午後 9:44[ einhorn2233 ]


> guch63さん
マリアはヒロインの名前でもあり、ダブルミーニングになってるのかな。
おー、ビノシュ追ってますか。私も『イングリッシュ・ペイシェント』は好きでした。
『ゴジラ』みたいな怪獣映画でもビノシュはリアリティのある演技で際立ってましたよね。
監督としてはそういうのも女優のポテンシャルだと言いたいみたい。
『キックアス』出身のクロエ、『トワイライト』でスターになったクリステン、でも2人ともインディーズ映画でこんな上手い演技をするっていうのも含め。

2015/11/12(木) 午後 10:48pu-ko
2015/12/25(金) 01:21:12 | URL | pu-ko #SFo5/nok[ 編集]

> おみゃあさん
おみゃあさんのお好みではないかもですね(笑)
『イングリッシュ・ペイシェント』は淡々として長いこともあって、寝てしまうのも分かる。
睡眠の足りたときに見直すといいかも。ビノシュいいですよ。

2015/11/12(木) 午後 10:54pu-ko


> ゾンビマンさん
あーでも『悪魔のいけにえ』と一緒に公開してたら私もそっち観ますね(笑)
老いを受け入れがたいのは若いときにできてた事が出来ないというマイナスの要素を考えてしまうからですね。
でも積み重ねることで出来るようになったプラス要因もあるわけで、この映画はそんなことを教えてくれました。
劇場鑑賞は理想だけど所詮ぜいたくでもあり、よほどのお金持ちか招待券で観る批評家でもなければ、選りすぐらねばならないのは致し方なし。
お家映画でいい映画に出会うこともあるし、再見で良さがさらにわかることもあるので、私は好きですよ。

2015/11/12(木) 午後 11:04pu-ko


> Kaz.Logさん
ドレス着てるときと普段のビノシュのギャップが大きくてね(笑)
女優さんって凄いなって思ってしまったわ。勿論素材がいいわけだけど。
クロエちゃんも単なるアイドルじゃないオーラが出てきましたよね。

2015/11/12(木) 午後 11:07pu-ko


> 松たけ子さん
『存在の~』は未見~。
ビノシュは私は作品によっては苦手なんですが、それだけ役によってキャラを変えてくる上手い人なんでしょうね。
そだそだ。インディーズの名監督たちと仕事されてて、彼女の選択眼の確かさも感じますね。
『ゴジラ』は意外だったけどきっちり仕事してたという印象です。
『夏時間の庭』観たいなぁ。
テシネ作品はこっちらではレンタルされてるものが少ないのが残念。アサイヤス監督とのコラボ作品観たいんですよねぇ。

2015/11/12(木) 午後 11:16pu-ko


ビノシュの映画は結構観ていますね。
最近はあまりないですが、映画館で観たのは主役ではありませんが「コズモポリス」ですか。
女優顔のビノシュは嫌いではありません。
この人の出演作は一度観ただけでは良さがわからないものが多く、2度観ているものが結構あります。この映画もそうかも。

2015/11/12(木) 午後 11:19yymoon


> みーすけさん
わはは、私もロッセリーニに似てる!と思いながら観たんだわ(笑)
おっさんおばはんなとこ、そっくりだよね(笑)
ビノシュのエキセントリックなとこ苦手だとこれ厳しいかな。
劇中劇の彼女はかなり激しいし、ばか笑いするところは私もちょっと引いたw
あー、『ダメージ』途中リタイアした私。ビノシュは役によってちょっとだめなところあるから気持ちわかるわぁ。
クリステンはさりげない中にうまさがあってビノシュと対照的。
彼女はインディーズ作品でよさを発揮するよね。
今回腰周りのポチャ加減が意外なクリステンを拝めます。

2015/11/12(木) 午後 11:26pu-ko


> einhorn2233さん
おー、ベストテン入り確定ですか。
この映画はでも多分好みは分かれるでしょうね。
「この映画を面白いと思う人はどこが面白かったのか教えて」といった感想も多く目にしました。
私は早口の会話劇に手を焼きましが、einhornさんが映画的興奮があったと仰るように、途中ワクワク心が弾む面白さを感じましたね。
多分もう一回じっくり見直すと私ももっと良さがわかりそうです。
クリステンは自然に演じていて、天性の上手さを感じますね。
ヴァレンチノの消滅は私も自分の後者の解釈寄りですが、マリアの心象風景ということなんでしょうね。
あのシーンは本当に印象的で、その意味を考えるのが凄く面白いと思いました。
TBありがとうございます。

2015/11/12(木) 午後 11:42pu-ko


> yymoonさん
ビノシュはインディーズでも芸術的で深みのある作品に出てると言う印象なので、yymoonさんのお好みと一致するのではと思います。
『コズモポリス』での彼女は登場時間は短くても印象に残る出演でしたね。
本作は分かりにくい映画ではないんですが、面白みを完全に感じるには多少映画的経験が必要かなという気がしました。

2015/11/12(木) 午後 11:55pu-ko


おっさんおばさん風(笑)
いるいる、短髪のおばさんね。
浜美枝か(爆)

2015/11/15(日) 午後 11:08GH字幕


> GH字幕さん
ま、人のこと言えないんですけどねw
ちなみに大分弁ではおいさんおばさんといいます(笑)
浜美枝さんお元気ですか?

2015/11/16(月) 午後 0:27pu-ko


pu-koさんをこれからおいさんおばさんと呼ぼう。

2015/11/18(水) 午前 0:30GH字幕


> GH字幕さん
やめて(笑)

2015/11/18(水) 午前 0:38pu-ko
2015/12/25(金) 01:25:52 | URL | pu-ko #SFo5/nok[ 編集]
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