映画の感想や好きな俳優の情報を発信します。新作以外はネタバレあり。
【映画】 他人の顔
2014年08月04日 (月) | 編集 |



「もうひとりの自分」をテーマにした映画を観てみようという企画
今日は安部公房原作を勅使河原宏が監督した1966年製作の傑作SFドラマ『他人の顔』です。
他人の顔(1966)日本
英題:The Face of Another
監督:勅使河原宏
出演:仲代達也/ 京マチ子/ 平幹二朗/ 岸田今日子/ 岡田英次/ 入江美樹
 奥山仕事中の事故で大やけどを負い、顔と手を包帯で覆われることとなる。
妻に拒絶され、対人関係にも失望した奥山は、他人の顔になって自分の妻を誘惑しようと考えた。精神科医が実験的な興味から、彼に以後の全行動の報告を誓わせて仮面作成を引受けた。

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事故で顔を失った男が、新しく得た「他人の顔」と対峙する姿を描く不条理ドラマ。
顔のない男=奥山を演じるのは仲代達也
透明人間のように包帯で顔を覆い、顔を失うことはすなわち自己の喪失であるということを、精神科医(平幹二朗)と語り合うシーンは哲学的で面白いですね。
奥山は特殊なプラスティックで作ったマスク「他人の顔」を得て、自身ではなしえなかったことを実現しようとする。さらには、他人の皮を被った自分は本来ある自己とまるで違うことを証明しようともがき、あげくに犯罪に及ぶ。犯罪者の心理にはこういうこともあるのかもしれませんね。

洗練された武光徹の音楽、磯崎新らによるアーティスティックな造形美
どれをとっても芸術性の高い作品として目と耳を楽しませてくれました。

しかしながら、一度観ただけでは理解できない部分もあり
精神科医や顔の半分に火傷を負った少女の映画の中での存在意味
ナースを演じる岸田今日子さんが終盤手を洗うシーンが挿入される意味合いは?などなど
多くの謎が頭の中をぐるぐると駆け巡ることになりました。
youtubeに監督のインタビューを参考にしたというレビューが投稿されていて、参考になったので
以下自分なりに理解したことを述べていきます。
未見の方はご注意ください。

【ダブルイメージ】
劇中もさまざまなシンメトリーが描かれたり、アパートを借りるシーンがほぼ同じ台詞の繰り返しだったり
岸田さんの顔のリフレクションが映し出されるシーンは硝子に映ったにしては鮮明すぎてハッとしますよね。
レビューを聞いて気づいたのですが、冒頭、人の顔を写した古い写真が倍々に増えスクリーンを覆いつくすところから始まるところからも、この映画が「ダブル」を描くものであることを示唆してもいたんですね。

【何がダブルか】
では何がダブルなのか
第一には勿論仮面有り無しの奥山自身。
平行して語られる顔半分に火傷を負った入江美樹もまた奥山のダブルであるとも言えます。
奥山がマスクで顔を覆うのに対し、彼女は最小限髪の毛で覆うだけですが、顔の傷により自身の尊厳を失い悩むという点では奥山と同じ。
映画自体が戦争の後遺症にあえぐ日本人を投影したものとすれば入江の存在はそれを如実に表している形でしょう。彼女が迎えることになる悲劇。精神科医の診察室のドアの向こうに映し出される
水に漂う長い髪のホラーなイメージはここに繋がるのかな。

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問題は平幹二朗演じる精神科医の存在です。
はじめはマッドサイエンス的な意味を持たせていると思っていたのだけど
終盤押し寄せる顔のない群衆におびえる様子を見せるのは奥山ではなく精神科医なのにハッとします。
彼は奥山に「仮面を返していただこう」と哀願する。
それをアイデンティティを失おうとすることへの恐れと取るならば精神科医自身も奥山のダブル。
精神的束縛から解放されることを試みる奥山に抹殺されるのも、医師がクスクリーンから静かに消えることもそう考えると納得します。

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そのそもこの医師の診察室が異様なんですよね。
芸術的で美しいけれど、観るたびに形や明るさも変化する。
終盤ポーンと音がして誰かが鼓が打っているのには笑ってしまったし。
存在のないものの象徴のような気がしました。

あと、アパート管理人の娘を演じた市原悦子さんの存在はどうでしょう。
どう見てもおばさん・・というのは置いといてw
「娘さんですか?」と訊くと父親が「えぇ、まぁ」とあいまいに答えるところから、この父娘はいびつな関係にあるのかもしれないと思わせる。知恵遅れということもあって、彼女もアイデンティティ・クライシスに陥った存在であり、仮面の男と包帯の奥山が同一人物であることを完全に見抜いている点で、彼女もまた奥山の分身ということかもしれません。ヨーヨーが意味するところは何かは分かりませんけど。

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終盤ナース岸田さんが手洗いをするシーンも象徴的です。
彼女を取り巻く壁の黒い模様が血液をイメージし、その後シーンが奥山と医師とのラストシーンに繋がるところを見ると、ナース自身も奥山の一部ということかな。

「もうひとつの自分」を獲得することでアイデンティティ・クライシスに対峙しようとするアプローチは『セコンド』に似ていますが、ダブルを複数配したこちらの方がより複雑でした。

ごちゃごちゃと自分なりの推察を書き連ねましたが、お付き合いいただきありがとうございました。

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コメント
この記事へのコメント
いや懐かしいですね  大昔観ました  このコンビによる
砂の女、燃えつきた地図 なども 安部公房はちょこっとはまったこともありました
2014/08/04(月) 17:41:40 | URL | おみゃあ #79D/WHSg[ 編集]
これは以前YouTubeにアップされていたので、機会があれば絶対に観ます。
楽しみですね。
2014/08/04(月) 21:15:37 | URL | ゾンビマン #79D/WHSg[ 編集]
勅使河原宏の作品は敷居が高かった~。
数作しか観てませんが、これは興味深そうな。
そのうち鑑賞してみます。
キャストも好みですっ。
2014/08/05(火) 04:01:35 | URL | Kaz. #79D/WHSg[ 編集]
おみゃあさん>
京マチ子さんなんてはじめ気づかないほど若かったですから、古い映画ですよね。
市原悦子さんはほとんど変わってないですが(笑)
それでもこの時代にこれほど斬新な映画が作られたことを日本人として自慢に思うほどの出来。安部公房の視点の素晴らしさとアーティスト勅使河原の強力なタッグというところでしょうか。
2014/08/05(火) 07:23:49 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
ゾンビマンさん>
そうそう、フルで投稿されてましたね。ぜひご覧になってください。
人間の心の奥底の願望やドロドロがアートの世界で展開し、ちょっと見ものです。
2014/08/05(火) 07:26:31 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
Kaz.さん>
製作当事はまだしも、今のKaz.さんに超えられない敷居はないはず(笑)
芸術性も高いので、視的にも楽しめると思います。
ぜひ観てKaz.さん流に斬っていただきたい一本。
京マチ子さんのお胸も拝めます(笑)
2014/08/05(火) 07:29:59 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
この流れで行くと
次はフランスの
『顔のない眼』かな?
2014/08/05(火) 17:08:12 | URL | GH字幕 #79D/WHSg[ 編集]
字幕さん>
『顔のない眼』は記事書いちゃってるので今回はなし。
もうひとついっときたいのあるんですが・・・時間がない(笑)
2014/08/05(火) 17:29:29 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
興味深い考察でした。
いろいろなことを考えさせる映画で、以下、自分の思ったことを
まだまとまってませんが、述べさせてください。
最初、奥山はぐるぐる包帯巻きで出て来ますが
どう見たってこれは透明人間なワケです。
だから当然顔を手に入れるという展開になるのですが
気になるのは、ではなぜ(最初に)本当の奥山の顔を見せないのか?ということ。
そこで他人の顔を手に入れたことに疑惑を抱かずにおれないのです。
つまりあれは自分の顔なのではないか?
一方で描かれる火傷を負った少女ですが
彼女は自分の顔にこだわってある運命を選び取ります
(自分には少女が他人の顔を欲しているようには見えず、
だからこその決断と考えます)。
兄に「わたしきれい?」という時の彼女は
返事をすでに知っているかのような笑みを浮かべています。
つまり本作は、他人の顔と言いながら
自分の顔についての物語なのではないか?
顔のない群衆が出て来ますが、あれは僕らのはずであり
あなたの顔は本当に自分の顔なのか?という問い掛けに思えるのです。
映画は、奥山が確かめるように顔をまさぐって終わる。
2014/08/05(火) 19:51:55 | URL | HK #79D/WHSg[ 編集]
ところで、劇中ひとりだけ他人の顔を付ける人物がいます。
奥山の妻です。
彼女は夫だと知っていながら他人の顔をするのです。
あるいはそれは行き抜くための知恵だったかも知れない。
にも関わらず、奥山はその仮面を剥ぎ取ってしまう。
最後に「ダブル」について書かれているので
おや?と思ったことを。
精神医と奥山の最初のセッションでベルイマン『ペルソナ』と
そっくり同じ構図が出て来ます。
しかしこの2作は同じ製作年のはずであり
どちらがどちらを観ていたとは思えない。
なので思わぬ偶然と捉える次第ですが
共通していることからある予感をせずにいられないのです。
つまり精神医は、ホモセクシャルなのではないか?
奥山から妻を誘惑するつもりだと聞いた時のがっかりした表情は
看護婦の予想が的中したというだけではすまない奇妙さが
あります。
精神医についてもいろいろと思うところがあるのですが
もうだいぶ長くなったので、いろんな映画を連想したなかで
とくにつなげて観たい作品を2作挙げて終わります。
それは『太陽がいっぱい』と『めまい』です。
自分は見たままの感想でなんら考察めいたものは出来ないのですが
ともかく長文失礼しました!
2014/08/05(火) 19:55:20 | URL | HK #79D/WHSg[ 編集]
HKさん>
うわぁ、ありがとうございます。
『セコンド』では自分の人生が嫌になって別人の人生を求めたけれど、本作では顔を失ったことは事故であり当然取り戻したい対象ですもんね。
「自分の顔の物語」ということにも納得。
奥山の最後の表情はどう捉えればいいのか分からなかったので、とーーーっても参考になりました。
最初に顔を見せないことへの気づきも流石。こういう映画的なこだわりに気づけるようになりたいもんです。
『ペルソナ』との対比、私も少しよぎりましたが、そもそも私『ペルソナ』が分かってない(笑)
でも『セコンド』『ペルソナ』これと全部同じ年に製作されてるのは興味深いですよね。
私には難解だったけど面白い映画でした。
繋げてみたい映画の『太陽がいっぱい』は意図が分かるけど『めまい』はわからない(汗)
というか『めまい』を忘れてる(wめまい)
いつか再見してつながりを考えてみます。
HKさんの場合、考察は終わった上での繋げてみるブログだもんね。
スタイルはそれぞれでいいんですが、たまにその考察を披露してくださいな。
未熟者の私なんかには映画の見方としてとっても勉強になりますので。
コメントありがとうでした。
2014/08/06(水) 00:26:08 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
ご無沙汰しててすいません~
これめちゃ怖そうだけどいずれ是非見てみたいです(=゚ω゚)ノ
2014/08/06(水) 22:22:52 | URL | 翔 #79D/WHSg[ 編集]
翔さん>
いえいえ、私もボチボチですから。
これ色々考えながら観れる面白い作品でした。
アートなところも気に入ると思います。ぜひ。
2014/08/07(木) 05:42:39 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
へぇ、こんな作品があったですか。
観てみたいので、考察部分は斜め読みですが、目に入った画像から受けるイメージも興味深いです~
2014/08/07(木) 08:44:04 | URL | じゅり #79D/WHSg[ 編集]
じゅりさん>
見た目に面白く、意味合いを考えるのも楽しいとっても面白い映画でした。
機会があればぜひ観てみて~。
2014/08/16(土) 13:31:57 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
記事を拝見して録画してあったのを見てみました。なるほど、わけわからない映画でした。「ダブル」がキーワードという解釈を大変興味深く拝見しました。娘と主人公の関係がよくわからなかったのですが、娘も主人公というのはなるほどと感心しちゃいました。私には、今は簡単に「自分探し」ができるけど、当時はしがらみを全て切り捨てるという大仕事をしないと「自分探し」ができなかったんだなあってのが面白いと思いました。今は誰でも簡単に孤独になれるし、孤独に慣れているから、あそこまで、手間かける必要はないよなあって思っちゃったりもして。
2014/08/20(水) 07:11:56 | URL | einhorn2233 #79D/WHSg[ 編集]
einhornさん>
ね、なかなか手ごわい作品でした。
娘の解釈含め、私の「ダブル」的な見方は多分間違ってるんですが(笑)
原作を読むと正しい方向に思考を向けることもできるんでしょうけど、映画となったものを観て、自分なりの解釈を加えてもいいのかなと思ったりします。
仰るように結局は「自分探し」を描くものでしょうね。
時代の違いと言うのを考えてみるのも面白いですね。記事楽しみに拝見します。
TBありがとうございました。
2014/08/20(水) 09:53:50 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
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2014/08/20(水) 22:12:12 | 今昔映画館(静岡・神奈川・東京)