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時代の痛みを切り取る『キャタピラー』
2012年06月04日 (月) | 編集 |
今月は邦画もということで、まずは比較的新しいところから『キャタピラー』を。
主演の寺島しのぶベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を獲得しました。




キャタピラー
2010年(日本)
原題:キャタピラー
監督:若松孝二
出演:寺島しのぶ大西信満吉澤健粕谷佳五
増田恵美河原さぶ石川真希飯島大介地曵豪
ARATA篠原勝之


江戸川乱歩の『芋虫』は読んだんだったか、記憶があいまいなのだけど
オムニバス形式の『乱歩地獄』(2005)に収録されていた『芋虫』は観ました。
『芋虫』では、戦争で四肢を失った夫と妻が身体を重ねる姿が
官能的に描かれいびつさが際立っていたけど
戦時中の日本を、それほど感じさせるものではなかったと記憶しています。





さて、本作は久蔵を戦争に送り出すところから始まりますが
やがて久蔵は戦地で負傷し、四肢を失くした達磨さんのような姿で帰還。
勲章を与えられ、人々に生ける軍神として崇められる。
妻のシゲコは仕事の傍ら、夫の食欲と性欲を満たすことに明け暮れるのみ・・。

痛々しいほどに正直な映画でした。
「お国のため」という魔法の言葉に操られ、戦争に立ち向かう人々の姿は
滑稽でさえあり、なんとも虚しい。
中にはシゲコのようにやるせない思いを抱える者もいたでしょうけど
それを表に出せるはずもない、そういう時代。
この映画が正直だと思うのは、まず久蔵が戦時中に犯した蛮行を
断片的に見せていること。
これは邦画ではなかなかできなかったことでしょう。
久蔵がトラウマからPTSDに堕ちていくのも、
日本の戦争映画としては新しい描き方でしょうか。

妻シゲコはというと、こんな姿になっても、食欲と性欲だけは旺盛で
傲慢に振舞う夫を憎みながら、一方では子供に感じるような愛情も感じていく。
それもこれも戦争のためと戦争を憎みながらも
夫に尽くす良き軍人の妻として、人の尊敬を受けることに
辛うじて存在価値を見つけるしか、自分を慰める術が無い。
けれども、そのシゲコの振る舞いは次第に夫を苦しめ、
夫を苦しめることが小さな報復となって、妻の心の隙間を埋めていく・・
結局はともに深く深く傷ついていく夫婦の姿に、戦争の実態を見る思いでした。

シゲコを演じた寺島さんの演技の素晴らしいこと。
その虚しさに共感し、一緒に泣いてしまいましたね~。





誰もが自分を見失うしかなかった戦争の真っ只中にあって
少々頭の弱そうな男を演じた篠原勝行が、唯一
「時代」を傍観する姿が印象的でした。

戦争の痛みを切り取った秀作だと思います。

★★★★
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コメント
この記事へのコメント
これ見ていないんですよね。その前の「あさま山荘」のは見たんですが。
若松監督は新作が公開になっているし、見てみようかな。
最近、若松監督は寺島しのぶが気に入っているみたいですね。
新藤監督や若松監督みたいに、
問題意識をきちんと持って映画を作ってる邦画の監督ってほんと少ないですからね。
この時期の問題はいろいろ難しいのでしょうけれど
(平安時代が舞台の「平清盛」でさえ問題視されてて、驚くよ~。。。。。)、
きちんと検証すべきだと思います。
2012/06/03(日) 10:30:22 | URL | miskatonic #79D/WHSg[ 編集]
miskaさん>
あーー、監督は『あさま山荘』の方でしたか。
って、何も調べてなかった^^;
今気づいたけど、『自決の日』も監督さんだ。
監督は歴史を検証しようとされてるんでしょうね。
うんうん、色々に影響があるでしょうから戦争を扱うって難しいですよね。
そういう意味でもチャレンジャーだと思います。
でも戦後60年も過ぎた今だからできることもあるわけで、
その姿勢には敬意を表したいです。
平安時代のことを問題視してもw ありのままの歴史を知りたいですよね。
2012/06/03(日) 12:36:48 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
日本ではこの週末から
『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』の上映が
始まりました。若松監督、ピンク映画の時から好きなんですねけどね。
カンヌに出された『犯された白衣』『性賊/セックスジャック』とか、
当時は二日半で映画一本撮り上げたりロジャー・コーマン顔負けです。
公安警察にマークされたり、赤軍の映画作ったり
あの『愛のコリーダ』を製作したり
名古屋に自分の映画館持っていたりパワフルな方ですね。
『キャタピラー』に時も寺島しのぶの事務所から
脱がせないでくれと言われたけど、半ば喧嘩しながら撮ったらしい。
結局、結果オーライだったんで事務所からも褒められたって。
2012/06/03(日) 16:21:58 | URL | GH字幕 #79D/WHSg[ 編集]
ハイ!!ワタクシその「三島由紀夫」の映画の監督&ARATAさんの舞台挨拶をゲットしております(ゝω・) b
字幕さんから元893だと言われて、どんな方なのか興味津々です^^
この映画はこの時代の狂った世界がよく描かれてましたよね〜
表向きとは別に、どんな姿でも帰って来て欲しいと願っていたと思うのですが、帰ってきた姿が肉欲の塊だったら、、、相手をしながら苦々しく罵るのも理解できます、
クマが一番まともに見えましたね、
2012/06/03(日) 16:33:43 | URL | くらげ #79D/WHSg[ 編集]
執拗にみせるへ-かの写真  この人大嫌いなんやろうなと   クマさんよかったですねぇ
原田よっちゃんの我に撃つ用意ありのDVDが欲しい VHS画質悪ぅて
水のないプ-ルはあるんですが
2012/06/03(日) 17:32:16 | URL | おみゃあ #79D/WHSg[ 編集]
若松孝二をみんな好きな理由は
見たいものを見せてくれるからだと思う。
映画が見世物だということを
正しい意味で知っている作家だと思います。
↑俺も『我に撃つ用意あり』大好き!
2012/06/03(日) 18:12:48 | URL | HK #79D/WHSg[ 編集]
この作品は公開時にやたらと監督さんがマスコミに登場して反戦を訴えていたんですが、作品を観ると、上のコメントの方が仰る通り、まず「見せ物」重視の企画ありきみたいな印象の方が強く感じましたね。その方法はある意味成功していたと思います。鑑賞時、最初は隣で観ていたお婆さんは涙ぐんでいたんですが、途中からはドン引きしてましたわ(笑)・・・最後のくどい主題歌も、無理やり反戦を訴える部分でバランスを取ったみたいでナイスでした。
2012/06/04(月) 03:33:07 | URL | ゾンビマン #79D/WHSg[ 編集]
若松流検証映画ですねぇ。
この若松監督の世代はハッキリものを言う世代でもあるから、こういう「誰も撮らない映画」を製作するあたりは気持ちの良いものがありました。
それに増しても役者さんの熱演ですよね。
・・・TBしようと思いましたが、なぜか出来ませんでした~。
2012/06/04(月) 05:18:05 | URL | Kaz.Citta' #79D/WHSg[ 編集]
あ、あたしはTBできたぞ
あたしは「介護」も感じてしまったのでした。
TBおねがいします
2012/06/04(月) 05:46:00 | URL | る~ #79D/WHSg[ 編集]
この映画は公開時に映画館でみました。
TBはよくわからないので、自分の記事の一部を貼り付けさせてもらいます。
久蔵とシゲ子に起きたような悲劇は当時の多くの国民にもいろいろな形で起きていたことでしょう。そして、そのような過去は、国家神道に基づく全体主義教育によってもたらされた悲劇でもあります。そのような過去の事実を絶対に忘れてはいけないということを思い起こさせてくれる映画だと思いました。
久蔵の寝床には勲章と新聞のほかに昭和天皇・皇后の写真が置かれていたことが、象徴的でした。
寺島しのぶは好きな女優の一人です。
彼女の主演作のうち「ヴァイブレータ」「赤目四十八瀧心中未遂」の2作を観ていますが、泥臭い役をさせたら彼女はピカイチの女優だと思います。
本作でも彼女の存在感は圧倒的で、現実を受け止め、たくましく生き抜こうとする女性を見事に演じていると思いました。
2012/06/04(月) 06:14:28 | URL | yymoon #79D/WHSg[ 編集]
これは見応え十分でしたし問題作でもありましたね。
やっぱ寺島しのぶさんは凄い。
ただラストの広島・長崎の原爆投下シーンに被さる日本のB・C級戦犯の処刑シーンの関係は明らかにこの作品を破綻させるものだと思うけどそこは左翼家監督の面目躍如でしたね(笑)
TBさせて下さいね♪
2012/06/04(月) 06:18:52 | URL | marr #79D/WHSg[ 編集]
こんばんは。
精神的に痛い映画でした。反戦とかそういったメッセージもありますが、ひとつの人間ドラマとしてみると、何か人間の本質(動物的な存在になってしまった旦那)をまざまざとみせられているようで、逃げ出したくなるような映画でした。最後の元ちとせの歌はとても感動しました。
2012/06/04(月) 07:11:35 | URL | Quest #79D/WHSg[ 編集]
字幕さん>
若松監督はピンク映画もお撮りになってたんですね。
フィルモグラフィーチェックしてて、一年に相当の数の映画を撮ってるんだと気付きました。
ほんとコーマンもビックリの早撮りだったのね。
『キャタピラー』の寺島さんはもっとエロいのかと思ったら、エロスはなく、奇麗な裸体が印象的でした。服も脱がずにHなんかしてたら絶対女優賞獲れなかったでしょうねw
2012/06/04(月) 10:50:26 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
くらげさん>
うわーー、舞台挨拶いいなぁ。
緒方さんが三島を演じた『MISHIMA』(邦題は違うかも)が結構強烈だったので若松監督の作品も興味あります。
監督893上がりなの?(;゚∀゚)
でもはっきりと主張のある方なんでしょうね。
ほんと、狂った時代にあって、クマさんの役割が印象的でしたね。
2012/06/04(月) 10:55:26 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
おみゃあさん>
そうそう、天皇皇后のお写真が何度も映し出されましたね。
エンドロールで戦犯の絞首刑シーンがあったのも衝撃的だったけど、戦争責任に関し、暗に意図するものを感じるところですね。
『われに撃つ用意あり』ですか。
調べたけど若松作品は殆どレンタルされてなかった〜。
2012/06/04(月) 11:05:05 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
HKさん>
なるほど~。そういう作家性のある監督なんですね。
誰も言わないものに答えをくれる感じでしょうか。
この映画もそういう意味での正直さを感じました。
『われに撃つ用意あり』やっぱり面白いんだ。
観たくなるなぁ。
2012/06/04(月) 11:09:31 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
ゾンビマンさん>
内容を観ると、戦争の悲惨さと同時に愚かさも描かれてますね。
単に敗戦国を慰める内容ではないので、特にお歳を召した方など
こんな映画を観にきたんじゃないって思う人もいたでしょうね。
うーーん、私の観たものに主題歌らしきものは入ってませんでした(汗)
2012/06/04(月) 11:21:18 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
Kaz.さん>
なるほど、若松流検証映画なんですね。
ほんと、誰も言わない言いにくい部分をちゃんと描いていて
驚いたんですよ。
堅気な監督ですね。その勇気は貴重ですよ。
ほんと、演技者もみな見事でした。
TBたまに調子悪いですね~。
2012/06/04(月) 11:26:39 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
る~さん>
確かに、介護も大変って要素もありますよね。
TBありがとうございました。
2012/06/04(月) 11:28:25 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
yymoonさん>
記事をありがとうございます。
反戦の強いメッセージとともに、国家の責任なども感じさせる作品でしたね。
天皇皇后のお写真の象徴するところにも監督のメッセージを感じます。
私は寺島さんは今回初めてちゃんと観ました。
体当たりな演技で素晴らしい。
きっとどんな役も自分のものにしてしまいそう。
今度は現代的な役どころも観てみたいと思いました。
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ややこしく感じるかもだけどヤフーでの方法と変わりないので
またの機会に挑戦してくださいませ。
2012/06/04(月) 11:40:24 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
marrさん>
問題作でしたね。
ラストの処刑シーンは驚きました。
そうですね、この作品をどう観たいかによって
あのシーンの受け入れは変わってくるのでしょうね。
個人的には人の言わないことを言ってるという意味で
あれも良かったと思ってます。
2012/06/04(月) 11:45:10 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
Questさん>
痛いですよね。
戦争を戦うものも、それを支える家族も本当に苦しかったろうと思うし
訴えるものの大きい映画だったと思います。
最後に元ちとせの歌が入るんですね。
今回こちらのネットレンタルのストリーミングでは収録されてなかったみたい。
著作権の問題とかあるのかな。
2012/06/04(月) 12:10:22 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
あ、シゲコ(笑)
食欲と性欲が旺盛なのねw
これ温めて見てなかったわ~
衝撃度を覚悟してそろそろいっときます(=゚ω゚)ノ
2012/06/04(月) 18:47:10 | URL | 翔 #79D/WHSg[ 編集]
翔さん>
わはは。私もシゲコに反応したわぁww
おーー、もうきっと十分温まってると思うので観ちゃって~。
性描写は思ったよりマイルドだったんだけど、
個人的にはエンドロールが衝撃的でした。
2012/06/05(火) 15:41:23 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
夫に対して、シゲコが(笑) 「はい、はい。」と、あやすような口調なんて、親子のようでしたね。
「い~もむ~しご~ろごろ~」の鼻歌とか、モンペ姿がこれだけ似合う女優さんなかなかいませんねw
時間短めだったのがよけいに濃厚に感じました。
いまの政治も報道も、本当に必要な伝えるべきところを取り上げてないとおもう。
邦画もTVドラマの続編ばかりで、げんなり…。
若松監督は今後も要チェックします。「三島由紀夫~」は満島ひかりの弟も出演されるとのことなので、楽しみです^^
2012/06/05(火) 20:48:04 | URL | けいとき #79D/WHSg[ 編集]
こんにちわ~しげこですww
何かクスクスと笑われてる気分ですがww
長男の元○がシゲコさん・・・
そして、この作品の主人公がシゲコさん。。
そして私も。。
なんかもう偶然とは思えませんな^^
うん、この作品、若松監督流の反戦作品
他の監督にはまず無いアプローチかと思いますね~
若松監督作としては初めての劇場鑑賞でしたが
スクリーンからビシビシくるオーラのようなものが凄い
・・というような気がしました^^
2012/06/06(水) 21:48:53 | URL | SHIGE #79D/WHSg[ 編集]
若松監督、なぜか篠原さんを結構使うのですよね。お気に入りなのか仲が良いのか…。
で、この役を受けられる女優さんって、日本には寺島さんぐらいしかいないだろうなって思いながら観ました。
2012/06/07(木) 02:52:54 | URL | 突っ張り太郎 #79D/WHSg[ 編集]
けいときさん>
ノーメイクにもんぺ姿、この時代の女性を演じて違和感ない女優さん確かに貴重かも。
「い~もむ~し~』は、ウハっ、だんなさんお気の毒って感じでw
うんうん、はっきりと物を言うのが難しい時代なのかなぁ。
でもそろそろちゃんと検証しないとと思うことも多いですよね。
映画も大きな役割を担うと思います。
『三島由紀夫~』も楽しみですね。
2012/06/07(木) 15:11:02 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
しげこさん>(笑)
わはは、なぜかみんなSHIGEさんを思い出しながらニマニマしてたかもですねww
ほんと、私も無意識に観たのだけど、こういうアプローチの映画だったんだぁと
内心驚きました。
劇場でご覧になったら衝撃もあったのではと思います。
2012/06/07(木) 15:15:26 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
突っ張り太郎さん>
篠原さん常連さんなんですか。
独特の存在感で、最初は浮いてるかなぁと思ったけど
結果的には意味のある役だったんだなぁと感じました。
そうですね。奇麗事では演じられないし、勿論演技力も必要で
寺島さん凄かったなと思います。
2012/06/07(木) 15:17:46 | URL | pu-ko #79D/WHSg[ 編集]
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