映画の感想や好きな俳優の情報を発信します。新作以外はネタバレあり。
おとし穴
2013年01月25日 (金) | 編集 |


『砂の女』で気に入った手勅使河原作品
今日は安部公房の『煉獄』をベースにした、長編劇映画デビュー作『おとし穴』を観ました。




おとし穴(1962)日本
監督:勅使河原宏
出演:井川比佐志、佐々木すみ江、宮原カズオ、大宮貫一、田中邦衛、矢野宣、佐藤慶


不況の風が吹き荒れる北九州の炭鉱地帯。そのボタ山で殺人事件が発生した。
事件の目撃者である駄菓子屋の女は犯人に脅され嘘の証言をする。


廃墟となった炭鉱を舞台にした殺人事件をめぐる不条理劇です。
主人公は炭鉱に働く工夫(井川比佐志)。役名はない。
罪人上がりや朝鮮人などもいて「工夫」は差別用語ともされた時代のこと。

幼い息子を連れ炭鉱を夜逃げした男(井川)は
職を斡旋する宿の紹介で訪れたボタ山で、いきなり殺されてしまいます。
どうやら対立する労働組合のゴタゴタに巻き込まれた様子。
男の夢が「労働組合のある職場で働きたい」だったことを思うと皮肉です。

息子が一部始終を見ていたという設定から
この子が事件の解明に一役買う刑事ドラマが展開するかと思いきや
映画は、事件の輪郭を匂わせはするものの、
犯人の正体を明かすでもなく、罪人を裁くわけでもない。

面白いのは男が死体からむっくりと起き上がり
幽霊となって「なんで殺されなきゃならんかったんか」と嘆くことW

廃鉱となったボタ山のふもとの村には死人がウジャウジャいて
まさしくゴーストタウン
白いスーツの殺し屋を演じる田中邦衛
最初の登場シーンがお墓というのも死神的だし
蛙の皮を剥いだり、親の死体にも動じない息子も
ずぶずぶと足をとられる沼地にも
黄泉の世界との境が曖昧な不思議さが漂う。





この映画、死んだものが報復に走ればホラーになるのだけど
男も、巻き込まれて殺された駄菓子屋の女(佐々木すみ江)も
恨みつらみを口にし、嘆く以外には何もできず諦めるのみ。

運の悪いものは運が悪い。そんな空気が漂うのも時代ならではかな。
息子ちゃんはどうやって生きていくのだろうと心配になるけれど
主のいない駄菓子屋の菓子をくすねる様子には逞しさもある。
父のそばにお菓子を置くシーンが好き。





「なんでやねん・・」と吹き出しをつけたくなるラストシーンもまたシュール。
「死んだら忘れるが勝ち。」
先輩幽霊の言葉にもなにげに含蓄があった。




砂の女
2013年01月10日 (木) | 編集 |


 







砂の女(1964)日本
監督:勅使河原宏
出演:岡田英次、三井弘次、岸田今日子、伊藤弘子、矢野宣、関口銀三、市原清彦



休日を利用し、砂丘に昆虫採集にやってきた教師の男(岡田英次)は、村人の案内で崖下のあばら家に一夜の宿を求める。男は家に一人暮らす女(岸田今日子)につましい接待を受け一夜を過ごす。ところが翌朝、家を出ようとする男は、崖にかけられた縄梯子が無くなっていることに気づき愕然とする・・

安部公房の原作を勅使河原宏が監督した作品で名作と聞きながら、初鑑賞でございます。
いや~、評判どおり、これ面白かった!

男が崖の下と思ったその家は、砂に囲まれた穴の中のようなもので、男は巨大なあり地獄に落ちた昆虫のごとく、抜け出すことが出来ないままに女と同居を余儀なくされます。
この村に住むには家を侵蝕する砂を掻き出さなければならない。
男には何故人がこんな土地に住み、無意味な労働をするのか理解不能で
女をバカにし、何とか抜け出す術を模索します。
村の営みを卑下し、教師である自分を別格と位置づけていた男
けれど彼は女との暮らしの中に新しい価値観を見出していくんですよね。
男が趣味である昆虫採集の箱を女の内職のビーズ入れに提供する瞬間が転機のときかな。
どんな労働も、暮らしの糧となり意義を見出せれば価値あるものになるのだと気づかされます。




この映画で「砂」はいろんな役割を担いますね。
家を侵蝕し暮らしを脅かすものである一方で、女が生き人の関心を得るために必要だったり。
汗ばんだ身体に張り付く砂というのもなかなか官能的で、二人が互いの身体を拭きながら次第に身体を重ねるシーンのエロいこと。元祖不思議ちゃんな岸田今日子さんの恍惚の表情は異様な効果音とも相俟って少々ホラーでしたけど(笑)

「砂」と相反するところで「水」には希望を感じました。

脱出の様子を長回しで見せたり、砂の崩れるリアルな映像も圧巻。
村の陰謀に巻き込まれた男の不条理サスペンスとしても十分に楽しめますが、寓話的な作品を映像化した勅使河原監督の才能とこの時代の邦画のクオリティの高さに驚かされる作品でした。