映画の感想や好きな俳優の情報を発信します。新作以外はネタバレあり。
【追悼】ジョン・ハート『殺し屋たちの挽歌』
2017年02月02日 (木) | 編集 |
The Hit 1984
殺し屋たちの挽歌(1984
イギリス
原題:The Hit
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:ピーター・プリンス
出演:
ジョン・ハートティム・ロス/ラウラ・デル・ソル/テレンス・スタンプ/フェルナンド・レイ

【あらすじ】
強盗仲間を裏切り、スペインで隠れ住む男の元へ二人の殺し屋が現れた。二人の目的は、組織のボスが待つパリへ男を連れていくこと。そこへ誘拐事件に巻き込まれた少女が加わり、奇妙な4人組の旅が始まった……。

【感想】
  ジョン・ハートの追悼2本目です。
本作でジョン・ハートが演じるのは渋い殺し屋ブラドック。
彼の任務は、強盗仲間を裏切り10年間もスペインに隠れ住んでいたウィリー・パーカー(テレンス・スタンプ)をパリのボスのもとまで連行すること。相棒に若いチンピラ、マイロン(ティム・ロス)、ひょんなことからマギーという15歳(多分ウソ!)の女性まで巻き込んで、4人の奇妙な旅が始まります。
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ところが間もなく、パーカーの落ち着きはらった態度が2人の殺し屋の心をざわつかせるんですね。
マイロンはパーカーが何か企んでいるのではと気が気じゃない
また、ブラドックは、死を恐れていないように見えるパーカーの心を理解できないのです。

殺し屋映画も数々あれど、殺す側、殺される側の心情にここまで踏み込むものは少ないんじゃないでしょうか。
10年間、いつ暗殺者がやってくるかと怯えて過ごしたはずのパーカーは、しかしついにその時が来て、むしろ喜んでいる。
読書家の彼はいくつもの本を読み、運命を受け入れ、最後の舞台を自分の納得のいく形で終わりたいと思っている。
それでも死の受容のステージは、ちょっとしたことで後戻りするのが人間というもの。
テレンス・スタンプはそんなパーカーを見事に演じていて素晴らしい。

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ジョン・ハートはベテラン殺し屋ですが、心優しいゆえの詰めの甘さに、自分が一番落ち込むという複雑な役どころ。
ティム・ロスは若気の至りのどチンピラを奔放かつ繊細に演じていて、3人ともが怪演ですね。
でも本作で最もたくましいのが紅一点のマギー。セクシー投入だけの要員じゃなかったのね。
ブラドックが用なしになったマギーを殺せないのは、単に優しいからだけでなく、マギーのたくましさへの憧憬と尊敬の気持ちがあったのかな。
それぞれの関りが4人の心模様を複雑に絡め合うという卓越した脚本。しかも半分コメディかと思うほどの可笑しみも交えて描き出したフリアーズ監督の演出の素晴らしいこと。

長い旅の終わりを微笑みとウィンクという穏やかな表情で決めたブラドック。
スーツ姿の寡黙なジョン・ハートももちろん最高でした。
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舞台はスペイン。フラメンコギターの音色も心にしみた、これ間違いなく傑作。


お気に入り度4.7

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【映画】フローレンス・フォスター・ジェンキンス(原題)
2016年08月17日 (水) | 編集 |
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フローレンス・フォスター・ジェンキンス(2016
イギリス
原題:Florence Foster Jenkins
監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:ニコラス・マーティン
出演:メリル・ストリープヒュー・グラント /サイモン・ヘルバーク /レベッカ・ファーガソン/ニナ・アリアンダ

【あらすじ
夫の舞台に脇役で出演する富豪のフローレンスは、長年の夢だったオペラ歌手に挑戦!

【感想
『クィーン】のスティーヴン・フリアーズ監督の新作、メリル・ストリープ主演のコメディ・ドラマです。
今回メリルが演じるのは、実在した有名なオペラ歌手フローレンス・フォスター・ジェンキンス
どう有名かというと、客も思わず吹き出すような音痴だけど自分ではそうとは知らず、かのカーネギー・ホールの舞台に立った人だそうです。

と聞いて「あれ?」と思う方も多いでしょ。
そう、カトリーヌ・フロ主演のフランス映画『偉大なるマルグリット』は同じ実話をもとにしてるんですね。
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本作でまず光るのは、メリルの歌声ですね(笑)
もともと声楽も学んだメリルは声もしっかり出るし歌も素人にしてはうまいわけで
下手に歌うというのは逆に難しいでしょ。
それでも絶妙に音を外し、笑いを取るなんてなかなかできることじゃないはず。

しかも、天真爛漫なメリルの歌は、思わず吹き出してしまうことがあっても決して不快じゃない。
歌うことが楽しくて仕方ないというパフォーマンスに、映画の観客も、私たちも思わず笑顔になって
いつしか心から歌を楽しんでる。
本物のジェンキンスさんもきっとこうだったんだろうな、と思わせるところがメリルのすごさであり
フリアーズ監督の演出力でしょうね。

ただし、おそらくは伝記とうこともあって正直に描いたであろう夫婦の機微には
少々寂しい部分もあって、楽しいだけの物語ではない。
でも、光と影があるからこそ、泣いて笑える映画でした。Florencefirststill-large.jpg
ジェンキンスの夫役にヒュー・グラント
実は音痴でみんなに笑われているという事実を妻が気づかないように奔走する優しい夫ですが・・
優柔不断さはそのままに、でもシニカルなちゃらんぽらんさが消えておやじになったヒュー様は人間に丸みが出ましたね。

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本作で一番光っていたのは、ピアニスト役のサイモン・ヘルバーク
可笑しみとペーソスとやさしさをいい具合にブレンドしたキャラが際立って、彼がすごくよかった。
ピアノも実際に弾いてます。

そのサイモンさんが、映画が始まる前に「エンドロール後にカーテンコールでメリルとヒューと僕の話があるよ」と異例の予告。
いつもはエンドロールが始まるや入り口に清掃員が立って待ち構えるもので、普段はゆっくりエンドロールを観ることができにくいんですが、今回はみんな(2/3くらい)でエンドロールを見るといういつにない体験ができて新鮮でした。一度トイレに立った人まで戻ってきたりしてね。これも映画を楽しめたからこそ。
サイモン・ヘルバークを気に入ったからこそだと思いました。

こちら本物のフローレンスさん
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メリルのメイクはやりすぎですね。

日本公開はいつかな

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【映画】 あなたを抱きしめる日まで
2014年04月24日 (木) | 編集 |



マーティン・シックススミス
のノン フィクション本『The Lost Child of Philomena Lee』を原作に、18歳で未婚の母となり、幼い息子と強制的に引き離されてしまった女性フィロミナ・リーの子供探しの旅を描くヒューマンドラマです。
あなたを抱きしめる日まで (2013)フランス/イギリス
原題:Philomena
監督:スティーヴン・フリアーズ
出演:ジュディ・デンチ/スティーヴ・クーガン/ソフィ・ケネディ・クラーク/アンナ・マックスウェル・マーティン
イギリスの片田舎で家族と暮らすフィロミナは、ある日、長年胸に秘めてきた秘密を娘に明かします。
10代で妊娠したフィロミナは修道院に入れられ、重労働を余儀なくされた挙句、
幼い息子アンソニーと強制的に引き離されたという過去があったんですね。
50年に渡る母の苦悩を知った娘は、仕事場で出会ったジャーナリストのマーティンに相談を持ちかける。最初は気乗りのしなかったマーティンですが、作家として再起をかける時期にあり、取材に同意。アンソニーがアメリカに渡った事実を掴み、フィロミナとともに息子探しの旅に出るのですが・・

 監督は『クィーン』のスティーヴン・フリアーズ
フィロミナにジュディ・デンチ、原作者であり、旅のお供をするジャーナリスト、マーティン・シックススミスにスティーヴ・クーガンが扮します。

 アイルランドにおける修道院の実態は『マグダレンの祈り』で知ったところですが、
本作では修道院のさらなる残酷な事実が明かされることになり、その非情さに驚愕します。
でもそこはフリアーズ監督。
ジュディ・デンチを起用し母の愛を前面に出し、訳ありジャーナリストとのロードムービーとして描くことで、ユーモアと重厚さを併せ持ったヒューマンドラマに仕上げてくれました。




 フィロミナは、息子アンソニーに人目会いたい。
一日たりとも息子を忘れることのない彼女は、アンソニーが祖国アイルランドを、そして母のことを思うことがあったのかをどうしても知りたいのです。
アンソニーの思いにたどり着く過程はミステリーでもあり、フィロミナとともに一喜一憂してしまいました。

 とにかくデンチが魅力的でね。
好奇心旺盛で可愛らしく、ホテルの朝食を楽しむ様子なんか思わず頬が緩んでしまいますが
サバサバとして潔く、歯に衣着せぬフランクさも持ち合わせていて駄目なものは駄目と諭すんですね。
シニカルなマーティンが母親に叱られた子供のようになりながら
次第にフィロミナをリスペクトしていく様子が気持ちいい。

 真実を語ることをよしとするジャーナリスト VS カソリックという構図で
修道院の悪を明かしてはいくものの、憤りや悲しみを乗り越え、それでも赦しを与えることのできるフィロミナの姿に、彼女の信じる宗教の素晴らしさも感じます。
スティーヴ・クーガン自身も加わった脚本もいいんですね。

今回、フィロミナの語る言葉のひとつひとつにハッとするところがあり、いくつかをノートに書き留めました。
その中のひとつ「I don't want to hate people.」は究極にシンプルだけど、必ずしも簡単ではないでしょう。
でもそれを実践するフィロミナの強さに感動。
彼女のようにはなれないけれど、私も座右の銘として心に刻んでおこうと思ったのでした。

ちなみにこちら(下)が原作者のマーティン・シックススミス氏と本物のフィロミナさん



アカデミー賞では 作品賞、主演女優賞、脚色賞、作曲賞でノミネート
ヴェネチア映画祭で脚本賞を受賞しています。
いい映画でした!