映画の感想や好きな俳優の情報を発信します。新作以外はネタバレあり。
【映画】『桜桃の味』視点を変えれば幸せも見えてくると教えてくれた
2016年07月07日 (木) | 編集 |
先週は『ウィッカーマン』のロビン・ハーディ監督、『ディア・ハンター』のマイケル・チミノ監督の訃報が続き
4日にはイランの巨匠、アッバス・キアロスタミ監督まで亡くなってしまった。

キアロスタミ監督と言えば、淀川長治さんが「爆笑問題」の太田さんとの対談の中で
『桜桃の味』を観てないという太田さんに「死刑!」を言い渡したエピソードが記憶に新しい。
私も死刑だと思いつつそのままになってた『桜桃の味』、やっと観ました。
生きることに疲れ、自殺を決意した男が、ある出会いにより心の変化をきたすさまを描くヒューマンドラマです。
太田さんもご覧になったかな。



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桜桃の味(1997)イラン
原題:Ta'm e guilass/The Taste of Cherry
監督/脚本:アッバス・キアロスタミ
出演:
ホマユン・エルシャディ/アブドルホセイン・バゲリ/アフシン・バクティアリ

中年の男バディ(ホマユン・エルシャディ)が車を走らせている。彼は職を探している男を助手席に乗せては、遠くに町を見下ろす小高い丘の一本の木の前まで無理矢理に連れてゆき、奇妙な仕事を依頼する。

【感想 
人によっては退屈極まりない作品らしいのだけど、私には一語一語が心に染み込みる傑作でした。
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暗い目で車を走らせる主人公のバディは、自殺することを心に決めた男。
彼は協力者になってくれそうな人を探しては、死に場所と決めた穴に連れていき
「明日の朝、この穴に横たわる私の名前を呼んで、もし返事をすれば助け起こし、
無言ならば土をかけて欲しい」と依頼する。

報酬があるとはいえ、誰も「死」に係りたいとは思わないわけで
「よっしゃ!まかせとけ!」と言える人はそうそういないよねぇ。

話を聞いて一目散に逃げたり、アラーの意に背くと説教したり
その反応にバディの気持ちはさらに荒んでいく。
映画の前半はそうしたバディの虚無感と、怒りにも似た思いが描かれます。

でもそうしながらもキアロスタミ監督の演出はどこか優しい。



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バディが山道で脱輪するシーンでは
すぐさま車の周りには日雇の山堀労働者が寄ってきて、あっという間に車を抱え上げてくれる
↑その先頭にいるのがニコニコ顔のおじいちゃんだったり


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途方に暮れブルドーザーの通り道に座り込む主人公に移動を指示する現場監督も
「邪魔だからどきなさい」と言いながらも、「お茶をあげようか」と訊いてきたり

そうして三人目の協力者候補として登場した一人のおじいさんとの出会いは、
バディの中に小さな変化をもたらすのです。

思うに、どうしようもないほど思いつめ、死を覚悟した人間は
誰かに協力を求めたり、死ぬことを話したりしない気がする。
バディはじめ、多くの人は心の中で最後の瞬間まで、生きる望みを探しているんじゃないかと思うんですよね。

タイトルの「桜桃の味」のエピソード含むおじいさんの話は
自らの体験から生きることの意味を教えてくれるもの。

美味しいとか美しいとか感じられるのは生きているからこそ。
人が美味しいと喜ぶ姿を幸せに感じるのも生きていてこそ。
そんな話に涙が止まりません。


映画はしかし、バディが最後どうなるのか、その結末は描かない。
暗転のあとのあのラストには正直ポカンとなったけれど
おそらく、そこからは観客自身が想像し、結末を演出していいということでしょうね。

イランの街中は黄色い埃にまみれていたけれど
人々の心にはまだ緑がある。
見方が変われば、物事は違って見える。
それま気づかなかった幸せに気づくこともあるんだと教えてくれます。

そんなことを優しく諭してきた監督の死は、イラン国民とって大きな損失であり悲しみでしょう。
監督のご冥福を心からお祈りします。

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余談ですが
昨日はわがダラスも黒人問題を引き金にした銃撃戦で大変なことになってまして
今日は何となく外に出るのが怖いです。

たくさんの人がこういう映画を観て、視点を変えるきっかけを得たり
幸せを感じるすべを見つけていけばと思わずにいられません。




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【映画】 ライク・サムワン・イン・ラブ
2014年06月10日 (火) | 編集 |


ライク・サムワン・イン・ラブ(2012)フランス/日本
原題:Like Someone in Love
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:奥野匡/ 高梨臨/ 加瀬亮/でんでん/森レイ子/ 大堀こういち/ 辰巳智秋
日本公開:
イランのアッバス・キアロスタミ監督が日本を舞台に撮った日本/フランス共作の一本。

恋人のノリアキ(加瀬亮)と電話で会話中の明子高梨臨)。
友達と一緒だという明子の言葉を信じず、居場所を追求するノリアキ。無理もない。
明子はデートクラブでバイト中で、その夜も支配人(でんでん)に指示された顧客奥野匡)のもとへとタクシーを走らせるのだった。

ライク・サムワン・イン・ラブとはよく言ったもので
元大学教授のタカシ、デルヘリ嬢の明子、その恋人のノリアキと
3人それぞれに愛を欲しているものの、一方通行なんですよね。



曖昧なままに付き合ったり、安易に風俗行に足を突っ込む明子は限りなくいまどきの若者
独居老人である80代のタカシが、仕事もそっちのけにデリバリ嬢にのめり込み
結局振り回されてしまうのは滑稽だけど、彼の孤独を思うと切実で悲しい
相手の気持ちはそっちのけに明子との結婚を切望するノリアキは、ストーカー系恋愛の極みでもあり
最後の5分まで淡々とも言える静かなやり取りが続くのに不思議に退屈しない。
そればかりか三人の関係が不思議な緊張を生む異色ドラマでした。

感心するのは日本人らしさをイラン人であるアッバス監督が見事に捉えている点。
日本の今とカルチャーを切り取りつつ、都会の孤独を際出たせているのが見事。


一番映画的だったのは、明子とおばあちゃんのエピソードかな。
高田みづえの「硝子坂」が流れるタクシーで、涙をぬぐって赤いルージュを引く明子がかっこいい。

タカシ役の奥野さんは84歳なのに運転するシーンが大半でお疲れ様でした。
ベテランなのに素人のような自然さでした。

加瀬さんは怖い役を演じても上手いね。