映画の感想や好きな俳優の情報を発信します。新作以外はネタバレあり。
【追悼】ビル・パクストン『バーグラント』
2017年02月27日 (月) | 編集 |
昨日は朝からビル・パクストンの訃報に心を痛め、夜にはアカデミー授賞式の前代未聞の作品賞取り違えに脱力した、記憶に残る一日になってしまいました。

アカデミーのことは後で触れるとして、今日はパクストンの追悼です。

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バーグラント(1992)アメリカ
原題:The Vagrant
監督: クリス・ウェイラス
脚本: リチャード・ジェフリーズ
出演:ビル・パクストン/マーシャル・ベル/マイケル・アイアンサイド

【あらすじ】
小市民のグラハムは住宅街に中古の家を買うが、家に出没する謎の浮浪者に翻弄されることになり・・

【感想】
マイホームを手にした主人公が巻き込まれるドタバタを、コミカルかつサスペンスフルなミステリーコメディに仕上げた日本未公開の一本です。
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主人公のグラハムを演じるのは勿論ビル・パクストン
買ったばかりの家に汚いホームレスが裏口から勝手に出入りしていたらそりゃビックリするでしょ。
鍵を替え、塀を巡らせてもなぜか家に入ってくるその男に危険を感じるグラハム。しかし、警察にも取り合ってもらえないばかりか妄想クレイマーと疎まれ、グラハムは自分が正気なのかさえ分からなくなる始末。
そんなとき、ついに殺人事件が発生し・・
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ホームレスがこんな風貌だったりで、いかにもB級テイストですが、製作がメル・ブルックスとあって、ブラックユーモアとミステリーが程よくミックス。ホームレスの意外な秘密を明かし、いかにも90年代な結末を迎える展開も飽きさせません。

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グラハムがマイホームを購入したのは、ガールフレンドとの結婚を夢見、人生の転機としたかったから。なけなしのお金をはたき目いっぱいのセキュリティを設備した彼は浮浪者ごときのために簡単に家を手放せない。しかもガールフレンドは君には全然に合わないだろうと思うような女狐なのもやるせなかったりで、そんな崖っぷち男の悲哀を、出ずっぱりで誠実に演じるパクストンが愛しいのです。

画質は悪いですがトレイラー貼っておきます。





昨日はアカデミー賞があれで、パクストンの訃報が宙に浮いてしまったけれど
一通り落ち着いたらパクストンを悼むコメントも溢れてくるはず。

心臓手術の合併症が死因とされてますが、数週間前までドラマの撮影をしていたようだし、本人も家族もこんなことになるとは思ってなかっただろうな。
ハリウッド大作にもたくさん出演してるけれど、もはやカルト作品の部類に入るのではないかと思われる監督作品の『フレイルティ/妄執』も好きでした。もっと監督作品も撮って欲しかった。

61歳なんてあまりにも若すぎる。
ビル・パクストン 安らかに。



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【映画】デンゼル・ワシントン監督&主演『フェンス』
2017年01月26日 (木) | 編集 |
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フェンス(2016 アメリカ
原題:Fences
監督:デンゼル・ワシントン
脚本:オーガスト・ウィルソン
出演:デンゼル・ワシントンヴィオラ・デイヴィス /スティーヴン・マッキンレー・ヘンダーソン/ジョバン・アデポ /ラッセル・ホーンズビー/ミケルティ・ウィリアムソン

【あらすじ】
1950年代のピッツバーグ。ごみ収集員として家族を養うトロイだったが・・

【感想】
  アカデミー賞のノミネーションが発表になりましたね。
今日は作品賞主演男優賞デンゼル・ワシントン)、助演女優賞ヴィオラ・デイヴィス)、脚色賞にノミネートされた『フェンス』を観てきました。オーガスト・ウィルソンの有名な戯曲をデンゼル・ワシントン監督で映画化した家族ドラマです。
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舞台は50年代のピッツバーグ。デンゼル・ワシントン演じるトロイは黒人リーグで活躍したプロ野球の選手でしたが、学もなく、引退後はごみ収集員として妻子を養う日々。昔の栄光を誇りに思いつつも、社会的立場の弱い自分に憤りを感じています。ある日妻ローズから塀を立てることを依頼されたトロイはフットボールに没頭し家の手伝いを怠りがちな息子とともに作業しますが、息子との確執は深くなっていきます。トロイは息子が自分を超えるのではないかと嫉妬していて、また、プロの世界に入れば黒人差別に遭うことも危惧してるんですね。
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タイトルの『フェンス』はおそらくトロイの心のバリアを表すもの。
差別社会で押しつぶされながら生きるトロイは、自分の弱さを見せたくないから家族に威圧的にふるまう。自分を塀の中の王にすることで自尊心と劣等感のバランスに折り合いをつけているんでしょう。

先日トランプがメキシコとの国境に塀を建設する大統領令にサインしましたけど、この映画を観てなんとなく共通点を感じてしまった。トランプは移民を排除すればアメリカが良い国になると言っているけど本当にそうか?
シャットアウトしたつもりで、実は悪は壁の内側にあって、じわじわと人の心を浸食していく気がしてならないんですよね。
相手を理解することを拒み壁を作れば摩擦が生じる。
トロイが自分を遮断することで、家族の溝が深まっていくように。

ただし、映画はマイナスな面だけを描いて終わるわけではありません。
それをどう打破すべきかを示唆しているのが素晴らしいんです。
息子との喧嘩の中で、トロイが息子に突き飛ばされて塀にぶつかるシーンは象徴的でしょう。
トロイは壁を壊さなければならない。それはおそらくローズも同じ。

やがて外からやってきた、家族を脅かす存在に思えたものを受け入れることで、ローズは変わっていく。
最後はその存在(ネタバレしたくないのでこんな表現になりますが)が懸け橋となって、家族の確執を溶かしていく様子に感動します。これは家族の再生の物語。

ただ元が舞台劇ということで会話が多いんですね。
しかもデンゼルは驚くほどにセリフが多いんですが、強い南部訛りのため私には聞き取りにくく困りました。

50年代ほどではないにしろ、いまだに黒人差別がはびこるアメリカ。
昨年の「オスカー・ソー・ホワイト」も記憶に新しいところだけど、デンゼルが今これを映画化したのはそれに対抗する意味があったのかなと勝手に思ったり。

差別を叫ぶ前に、自分たちの渾身の演技で実力を示せばいい!!
デンゼルとヴィオラの演技にはそんな気概を感じます。
ちなみに二人はリバイバル版の舞台劇でも同じ役を演じ、揃ってトニー賞の主演男優賞、女優賞をとってるので、うまさは折り紙付き。
最後、スピリチュアルな意味合いで使われる「道をつける(あける)」という言葉にも、作り手の思いを感じます。
幻想的な演出にもしみじみ感動。今こそ観るべき映画ですね。

登場人物は誰も力強いパフォーマンス。映像もよかった。





お気に入り度★★★★



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【映画】パッセンジャー
2016年12月22日 (木) | 編集 |
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 パッセンジャー(2016 アメリカ
原題:Passengers
監督:モルテン・ティルドゥム
脚本:ジョン・スペイツ
出演:クリス・プラットジェニファー・ローレンス/マイケル・シーン/ローレンス・フィッシュバーン

【あらすじ】
5,259 人の乗客を乗せて地球を後にした豪華宇宙客船アヴァロン号。目的地となるコロニー、ホームステッドまで乗客は120年間カプセルの中で眠るはずだが、2人の男女だけが90年も早く目覚めてしまう。絶望的状況の中惹かれ合う2人だったが・・


クリスマスを前に話題作が続々公開になります。
全部観たいけど、そういうわけにもなぁ。
今日は『アサシン・クリード』と迷ってこちらをチョイス。
クリス・プラットジェニファー・ローレンスが120年の長い宇宙旅行の途中、90年も早く目覚めてしまった乗客を演じるSF大作です。
メガホンをとったのは『ヘッドハンター』『イミテーション・ゲーム』のノルウェー監督モルテン・ティルドゥム

最近は退廃的な地球を舞台にした近未来ものが多い中、舞台が完全に宇宙(宇宙船内)というのはまずクール。
船内に男女が2人という設定は『青い珊瑚礁』なんかの好きな漂流ものを彷彿とさせるわけで面白くないわけがない。しかも90年も早く目覚めたら、どう頑張っても目的地に着くまでに老衰!2人のサバイバルにどんなオプションがあるのかと興味津々で見ることになりました。

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まずはエンジニアであるクリスが色んな道具を持ち出して壊したり作ったりするのが楽しい。
そもそも彼がコロニーへの移住を決めたのは、物作りに生きがいを持っていた彼が地球ではもはや必要とされないことに絶望していたから。こういう漂流サバイバルものには一番必要な人物かも。
ただし、船内には必要なものは全部そろっていて、もの作りの技がさほどサバイバルに生かされないのは残念。

ジェニファーに恋する様子も微笑ましい。考えたらクリスの正当な恋愛ものを見るのは初めてじゃないかな。ロマンスとしては問題含みで、中盤まではかなり面白かった。

ところが、後半の展開が早すぎて凄くもったいなんですよねぇ。
今起きてる問題が何なのか、それにどう立ち向かおうとしてるのかが見えにくいから置いてけぼりを食らってしまう。
もっと2人の思考の過程をじっくり見せるとまた全然違った面白いものになったんじゃないかな。

テクノロジーに関しては「未来にはできるんだろう」と思えるからいいのだけど、技能面では少しツッコミたい感じ。たいした宇宙訓練を受けたわけでもなかろう人間が『ゼログラヴィティ』みたいなこと簡単にできるんかなとか、色んな無理を感じてしまった。

ま、でも、ロマンス、アクション、ドラマ、サスペンスと多様なジャンルを盛り込んだ作品で、クリスの演技をじっくり見れたのが最高の収穫。主演2人+マイケル・シーンは文句なしにグッジョブです。
近未来映像もスタイリッシュでキレイ。ところどころかわいらしい笑いが投入されているのも好みでした。
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人間だれしもいつかは死ぬわけで、限りある命をどう生きるかというのが本作のテーマでしょうね。
最後に二人の映像を少し入れてくれるともっと感動できたかも。

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【映画】はじまりへの旅
2016年12月11日 (日) | 編集 |
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はじまりへの旅(2016 アメリカ
原題:Captain Fantastic
監督/脚本:マット・ロス
出演:ヴィゴ・モーテンセン/フランク・ランジェラ/アン・ダウド/スティーヴ・ザーン/ミッシー・パイル/キャスリン・ハーン

【あらすじ】
現代社会から切り離されたアメリカ北西部の森で、独自の教育方針に基づいて6人の子どもを育てる父親ベン・キャッシュ。子どもたちは皆アスリート並みの体力を持ち、6カ国語を操ることができた。ところがある日、母が亡くなり、一家は葬儀に出席するためニューメキシコを目指して旅に出る。


マット・ロス監督によるアドベンチャー・ロードムービーです。

アメリカでは学校に行かず、ホームスクーリングと言って自宅で教育を受けるシステムが合法化されてます。公立学校の教師のとんでもない実態を描く『Waiting for 'Superman' 』なんてドキュメンタリーがありましたが、まともな学校がないから家で学ばせるというケースもあるんでしょうね。

この映画の場合、ヴィゴ演じるベンは無駄や無意味にあふれた世界を嫌い、世間から離れた森で子供たちにサバイバルの実践を学ばせています。哲学や語学なども教育して、長男などは有名大学にすべて合格する学力も。そんな彼らが病気療養中だった母レスリーの死を受け、葬儀に参加するために旅に出る。それはレスリーのある願いを叶えるためでもありました。

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これは面白かった。
特殊部隊みたいな特訓を受けた子供たちの身体能力の高さを見せる冒頭から新鮮。
ロードムービーへと移行する中盤からは、それまで一つの王国だった一家が、世間の目からどう見られるかを目撃することになります。ベンの妹夫婦の家族、レスリーの両親(フランク・ランジェラ&アン・ダウド)等からなどの視点を入れたり、子供たちの中からも自然に疑問が湧き上がったりで、一家を多角的にとらえているのが巧いところ。

ヴィゴは思わぬ現実を突きつけられたリ、挫折しながらも、子供たちの幸せを願う父親をユニークかつ人間らしく(すみません。いつもクールすぎるので)演じていて素晴らしい。
インディペンデント・スピリット賞やサテライト賞で主演男優賞にノミネートされています。

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サバイバル暮らしをする一家にしては子供たちが色白すぎて現実味がなかったですが、子役がみんな可愛く、衣装などがキッチュで目に楽しい。
長男役には『パレードへようこそ』で印象的だったジョージ・マッケイ。
ポスターなどに少しウェス・アンダーソンっぽさがあるけど、そこまでふわふわじゃないのは好み。
家族の物語としてもあたたかく見ごたえがありました。



日本公開は来年の4月です









【映画】ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気
2016年12月06日 (火) | 編集 |
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 ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気(2015 アメリカ
原題:Freeheld
監督:ピーター・ソレット
脚本:ロン・ナイスワーナー
出演:ジュリアン・ムーアエレン・ペイジマイケル・シャノンスティーヴ・カレル

【あらすじ】
20年以上にわたり刑事として働くローレルは、ステイシーと出会い恋に落ちる。やがて一緒に暮らし始める二人だったがローレルが病に冒されていることが発覚。ローレルは自分の死後、ステイシーが遺族年金を受け取れるよう郡に申請するが・・


第80回アカデミー賞で短編ドキュメンタリー映画賞を受賞したドキュメンタリーを映画化した作品です。
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同姓婚カップル、ローレルとステイシーにジュリアン・ムーアエレン・ペイジ
愛し合う二人は出会いから間もなくパートナー登録し、晴れて公的なカップルになります。
しかし家も買い幸せな毎日を送る中、ローレルが癌に罹患。余命いくばくもないことを知り、ローレルは遺族年金をトレイシーが受け取ることを希望するのですが、郡は無碍もなく却下。
それでもローレルの思いは強く、同僚デーン(マイケル・シャノン)の助言もあって郡の委員会にかけあうことに。
委員会は同姓婚カップルの権利に対し、どんな判断を下すのかという話です。
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全米で同姓婚が認められることになったのは昨年のこと。それまでは認める、認めないは州によって違っていたんですね。舞台となるニュージャージー州が同姓婚を認めたのは2013年。ですから、当時のローレルとステイシーの関係はあくまでドメスティック・パートナー・システムで許可されたものにすぎず結婚とは違うもの。委員会がローレルの申し出を却下するのも、不思議ではないのです。
そんなこともあって個人的には同姓婚には異論はないものの、ローレルのケースで「平等」を求めるのには無理があると思ったんですが、支援グループが参加し自体が動き始めるのを興味津々で観ました。
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後半は法廷もののような展開になるんですが、活動家スティーヴンを演じるスティーヴ・カレルがゲイ・トークで笑わせてくれるし、朴訥としていながらも誠実にローレルを助ける刑事の相棒マイケル・シャノンとのやり取りも楽しい。友情だったり、同情だったり、あるいは信念や勇気だったりと、支援者の思惑もベクトルも違うのだけど、それがかえってリアルで、映画の楽しみどころにもなっていたのはサプライズ。

ローレルとステイシーの力は微力でも、同じ考えのものが集まれば声は大きくなる。
結局委員会は痛いところを握られるということもあり、ごり押し的ではあるものの最後は二人の愛と支援の力が大きなうねりを生み出す様には感動しました。

ジュリアン・ムーアは刑事でレズビアンで癌末期という難しい役でしたが、終盤は観ているこちらが苦しくなるほどの喘鳴を伴う息遣いを見せるなど細かい演技も秀逸。流石ですね。
製作にも携わるエレン・ペイジもナチュラルでよかった。プライベートでもゲイをオープンにするエレン、脚本のロン・ナイスワーナー(『フィラデルフィア』)ともに、思い入れの強さも感じるところでした。



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